Asgeirsson's Mean Value Theorem
滑り込みですが枠が空いていたので、
日曜数学 Advent Calendar 2018 - Adventar
に参戦します。
唐突ですが、超双曲型方程式 - Wikipediaを見ると、最後に
「超双曲型方程式は調和函数に対する平均値の定理に似たものを満たす。」
という記述があります。上のページにはそれ以上の情報はないのですが、これは面白そうだと思っていろいろ調べてみると、何やらAsgeirsson's mean value theorem というのがあるらしい、ということがわかってきました:
Asgeirsson's Mean Value Theorem
$x_i,y_i (i=1,\dots,n)$の$2n$変数函数$u(x,y)$が超双曲偏微分方程式
を満たすとき、$|x|^2\equiv\sum_i x_i^2$と$|y|^2\equiv\sum_i y_i^2$がそれぞれ一定の超球面$\times$超球面上の積分について、
が成り立つ($\rho$とに関して対称になる)。
【参考文献】
https://core.ac.uk/download/pdf/82741918.pdf
http://mathreview.uwaterloo.ca/archive/voli/1/robison.pdf
など
しかし探した範囲ではわかりやすくて自然な証明がなかったので、自分で考えた証明を書きたいと思います。
本題に取り掛かる前にまず、調和函数に関する平均値定理を復習しましょう:
$x_i(i=1,\dots,n)$の$n$変数函数$f(x)$がLaplace方程式
を満たすとき、平均値定理
が成り立つ。
証明
まず、$n=1$の場合はLaplace方程式を直接積分できて簡単なので省略。$n\ge2$に対しては二つの方針がある:
証明1(微分方程式を解く)
球面上の平均値を球の半径$r$の函数とみて、これが満たす微分方程式を解く方針で定理を示すことができる:
$n\ge2$のとき、Laplace方程式を球座標で書き直すと、
ただし、$\Delta_{S^{n-1}}$は$S^{n-1}$上のLaplace-Beltrami 作用素。これを球面方向に積分して、
とおくと、
積分して、$n\ge3$のとき
$n=2$のときは
しかし、$r\to+0$のとき$m(r)\to f(0)$(有界)より、いずれの場合も$C_2=0$。よって$m(r)=$定数となり主張が示された。
証明2(積分核を用いる)
$\Delta f=\Delta(|x|^{2-n})=0$とStokesの定理により、
$\varepsilon\to0$として、
に注意すると主張が成り立つことがわかる($n=2$の場合は積分核を$\log|x|$とすればよい)。
これらの方法を真似てAsgeirsson's mean value theorem を証明してみましょう:
Asgeirsson's Mean Value Theoremの証明
まず、$n=1$の場合は超双曲方程式が(1+1)次元波動方程式
となり、一般解が
と書き下せるので単純計算により
が示せる。以下$n\ge2$の場合を考える。
証明1(微分方程式を解く)
調和函数の場合と同様に、なる超球面$\times$超球面上における$u(x,y)$の平均値をと書くと、超双曲方程式を積分して、
とおいて整理すると、
$l(s,t)=m(s,t)-m(s.-t)$とおくと、$l$もと同じ微分方程式を満たし、$l(s,0)=0$である。よって、
である。$t=0$とおくと微分方程式は
となる。ただし、
である。これを積分して、
となるが、$s\to0$で$w(s)$は有界のはずなので、恒等的に$w(s)=0$である。よって、
であり、件の微分方程式は二階線形なので、$l(s,t)$は恒等的に0となる。すなわち$m(s,t)$は$t$に関して偶関数となり、はとのみに依存する。これよりはとに関して対称である。
証明2(積分核を用いる)
$n\ge3$のとき、調和函数の場合と同様にして部分積分により、
これより、
$\Delta_xu=\Delta_yu$なので、
両辺を$\rho$とで微分して移項すると、
これは、が、定数 の円上で一定の値をとることを示している。特に、である。
$n=2$のときは例によって積分核を$\log|x|\log|y|$にすればよい。
というわけで、調和函数のときに使えた二つの方法を真似ることで自然に(?)Asgeirsson's mean value theorem を証明することができました(二つの方針は本質的に似たようなものですが)。本記事における間違いや、よりわかりやすい証明を見つけた方は遠慮なく御一報ください。
ではまた、どこかのAdvent calendar 上でお会いしましょう。