高次元の図形の切り口の話

この投稿は数学デー Advent Calendar 2019 - Adventarへの参加記事です。


数週間前の一時期、数学デーでは「高次元における対称性の高い図形の、適当な超平面による切り口」という話題が流行していました。具体的には、例えば次のような問題です;

・$n$次元正測体(超立方体)$[-1,+1]^n$の$\sum_{i=1}^nx_i=0$による切り口はどんな図形か?
・$n$次元正軸体(正八面体の自然な一般化)の$\sum_{i=1}^nx_i=0$による切り口はどんな図形か?
・5次元正単体の6つの頂点を3つずつ2組にわける。それぞれの3頂点のなす正三角形から等距離の4次元部分空間による、もとの5次元単体の切り口はどんな図形か?

ただし、ここでは正軸体の中心を原点に、$2n$個ある頂点を座標軸上にとるものとします。これらの問題について得られた結果をまとめたいと思います。



まず、説明の都合上新しい(ここだけの)用語を一つ定義します;

定義 3次元的な「胞」で囲まれた、4次元的な「中身」を(かい)ということにする。

つまり、「塊」は「面」「胞」の次に来る概念です。この語を使うと、5次元正測体は「正10塊体」、5次元正軸体は「正32塊体」、5次元正単体は「正6塊体」となります。



次にそれぞれの問題について、最初に書いたような高次元での問題を考える前に、低次元ではどのような手順で切り口の図形が決定されるのかを考え、高次元の問題に敷衍します。


(1) 正測体$[-1,+1]^n$の$\sum_{i=1}^nx_i=0$による切り口
まず3次元の立方体$[-1,+1]^3$の$x+y+z=0$による切り口を考えます。「切り口の外周」がどんな形になるのかを知るためには、もとの立方体の各面がどのような形に切り取られるかを調べ、それらがどのように接続されるかを調べれば充分です。

もとの立方体の6つの面をそれぞれ$X_+,X_-,Y_+,Y_-,Z_+,Z_-$とします。面$X_+=\{(x,y,z)|x=+1,(y,z)\in[-1,+1]^2\}$と$x+y+z=0$の積は線分であり、同様にして他の面からも線分が出ます(以降、面につけた名前と同じ記号でこれらの線分を表す)。平面$x+y+z=0$と立方体の辺の交点を求めると$\{x,y,z\}=\{+1,-1,0\}$(置換を許す)であり、これによりたとえば$X_+$と$Y_-$が$(+1,-1,0)$で接続していることがわかります。同様にして$X_+,Y_-,Z_+,X_-,Y_+,Z_-,(X_+)$の順で6つの辺が接続していることがわかります。あとは対称性(詳細な議論は省略)により、求める切り口は正六角形であることがわかります。

これと同じことを高次元で行います。まず4次元正測体$[-1,+1]^4$の$x+y+z+w=0$による切り口ですが、胞$X_+$の断面は頂点が$(+1,+1,-1,-1),(+1,-1,+1,-1),(+1,-1,-1,+1)$であるような正三角形であるとわかります(以降、頂点を符号のみを使って$(++--)$のように書く)。この3つの頂点のうち、後ろの2つは胞$Y_-$から出る正三角形$Y_-$にも含まれるので、正三角形$X_+$と$Y_-$は辺を共有することがわかります。同様にして各胞から出る正三角形の接続関係を調べると求める切り口は正八面体になるとわかります。

次に5次元正測体$[-1,+1]^5$の$x+y+z+w+u=0$による切り口を考えます。ここまで正六角形、正八面体ときたのでなんとなく答えは正多胞体になりそうな気がしますが、その期待は裏切られます(笑)。まず$X_+$の断面(断胞?)ですが、塊$Y_+$との共有胞の断面は頂点が$(++zwu) ,\{zwu\}=\{--0\}$なる正三角形、塊$Y_-$との共有胞の断面は頂点が$(+-zwu) ,\{zwu\}=\{+-0\}$なる正六角形であるとわかります。これらの面を$X_{y+},X_{y-}$として、4次元のときと同様に面同士の隣接関係を調べると、たとえば$X_{y+}$と$X_{z+}$は隣接しないが、$X_{y+}$と$X_{z-}$や$X_{y-}$と$X_{z-}$は辺を共有する、などの関係がわかります(塊の断面を知るために塊の表面である胞の断面とその接続関係を考える、というように入れ子状の議論をしている)。これにより、塊$X_+$の切断で出る胞$X_+$は切頂四面体であるとわかります。あとは、切頂四面体$X_+$と$Y_+$は正三角形を共有し、$X_+$と$Y_-$は正六角形を共有する、などの情報により、もとの問題(5次元正測体の4次元超平面による切り口)の答えは bitruncated 5-cell(参考;Uniform 4-polytope - Wikipedia)となります。この多胞体は正5胞体の各面が小さい正三角形(正六角形ではない)になるまで頂点を切頂(各胞は切頂四面体になる)して得られるもので、切頂された頂点のところに新たにできる胞も切頂四面体になります。そのため正5胞体と同じ対称性を二重に持ち、10-cellとも呼ばれます。正5胞体の双対は正5胞体自身ですが、大きい5胞体を切頂して小さい5胞体にする過程のちょうど真ん中の形ということもできます。

最後に一般の$n$次元正測体の切り口ですが、上の結果から「$n$次元正単体を切頂して自分自身にするときのちょうど中間の形」と予測できます(ここはちゃんとチェックしてない)。「$n$次元正単体2つの共通部分」と言っても同じことになります(正四面体2つの共通部分が正八面体になるのと同じ感じ)。


(2) 正軸体$\sum_{i=1}^n|x_i|\le1$の$\sum_{i=1}^nx_i=0$による切り口
今度は正測体の場合とは逆に、正軸体の頂点が$X_+,X_-,Y_+,Y_-,\cdots$という名前で、面(胞、塊、……)が$(+++--)$などの符号でラベルづけされます(正軸体と正測体は双対なので当然ですね)。符号が$+$の頂点と$-$の頂点が綺麗に二つに分かれるような(超)平面で切るので、求める切り口は$(++---)$とか$(-++++)$のように$+$と$-$が入り混じった面の切り口によって囲まれる図形であることがわかります。

まず一番簡単な、3次元の正八面体を切る場合。切られる面はどれも$(++-)$とか$(+--)$のように$+$と$-$が2個と1個なので、それらの面の切り口は正三角形の中点を結んだ線分になります。$(++-)$と$(-+-)$のように符号が一箇所だけ違う面同士(およびそれらの切り口同士)は接触することに注意すると、最終的に切り口は正六角形になるとわかります。

次に4次元の正16胞体を切る場合。各胞は正四面体であり、切られる胞は大きく$(+++-)$のように符号が3+1になるグループと、$(++--)$のような2+2のグループに分かれます。胞の断面は3+1の方が正三角形、2+2の方は正方形(下の「正単体を切る場合」も参照せよ)になるので、適当に隣接関係を調べると(三角形と四角形が必ず隣り合う)、得られる切り口は立方八面体になります。

最後に5次元の正32塊体を切る場合。切られる塊は$(++++-)$などの4+1タイプと$(+++--)$などの3+2タイプがあります。4+1タイプの切り口は正四面体、3+2タイプの切り口は次節を参照すると(等辺)正三角柱になります。やはり隣接関係に気をつけてこれらの胞を4次元で組み立てると、最終的な切り口はruncinated 5-cell (small prismato 10-cell)(参考;Uniform 4-polytope - Wikipedia)となります。この多胞体は正五胞体の胞と頂点の位置に2グループ*5個ずつの小さい正四面体を配置し、同じグループの四面体同士を2グループ*10個ずつの等辺正三角柱で繋いだ図形です(違うグループの三角柱は互いに直交する向きで側面の四角形を共有する)。上で出たbitruncated 5-cell の面を削って角柱で埋めたもの、とも言えます。この図形もやはり、もとの5-cell の対称性を二重に持ちます。

一般の$n$次元正軸体の切り口ですが、これを一言で体系的に言い表わせるのかはちょっとわかりません。低次元の例からの推測によると、$n$次元正単体を適当にtruncate (rectify, cantellate, or runcinate) した半正多胞体になると思います。


(3) $(2n-1)$次元正単体の$2n$個の頂点を$n$個ずつに分けるように切った時の切り口
最後に$n$次元の正単体を半分に切った時の切り口を考えたいのですが、偶数次元の単体は頂点が奇数個で、綺麗に半分に分けられないので初めから次元は奇数としておきます。つまり、$(2n-1)$次元の正単体の$2n$個の頂点を$n$個ずつ二つのグループに分け、各グループごとに決まる2つの$(n-1)$次元単体の両方に平行で等距離にある$2(n-1)$次元部分空間による、もとの単体の切り口を考えます。

まず低次元の例として、3次元の4面体の頂点を$A,B,C,D$として$AB$と$CD$の両方に平行で等距離にある平面$X$による四面体の切り口を考えます。四面体の各面は$ABC$などのように、$ABCD$から1文字取り去った3文字でラベル付けできます。平面$X$によって$ABC$は$AB$と$C$に分割されるので、$X$による三角形$ABC$の切り口は正三角形の中点を結んだ線分になります(例によって、面と同じラベルで各線分を表す)。$ABC$と$ACD$のように、$AB$と$CD$の各グループから1文字ずつを共有する線分同士は切り口上で隣接するので、隣接関係はABC-ACD-ABD-BCD(-ABC)のようになり、最終的に四面体の切り口は正方形になります。

次に5次元6塊体$ABCDEF$の頂点を、二つの三角形$ABC$と$DEF$の両方に平行で等距離にある4次元空間で切るときの切り口を考えます。切り口の多胞体の各胞は合同なのでまず塊$ABCDE$の切り口として現れる胞が何であるかを調べます(3+3に切るときの切り口を調べるために3+2のときの様子を調べる、というようにここでも議論が入れ子になっている)。頂点のグループ分けは$ABC$と$DE$なので、$ABC-D$のような3+1の胞からは切り口として正三角形が、$AB-DE$のような2+2の胞からは正方形が出ます。あとは隣接関係を調べることで、塊$ABCDE$の切り口は等辺正三角柱になることがわかります。これと同じものが他5つの塊からも出て、結局6塊体の切り口は等辺正三角柱6つで囲まれた多胞体になります。あとは各の二つの胞の組がどのように面を共有するかを調べると($ABCDE$と$ABCDF$のように共有する四点が3+1の場合は三角形を共有し、$ABCDE$と$ABDEF$のように2+2の場合は正方形を共有する。正方形同士での接触は向きが非自明なので面だけでなく辺のラベルも用意しておくとわかりやすい)、最終的に得られる図形は3-3 duoprism(参考;Duoprism - Wikipedia)になります。これは等辺正三角柱3つずつ2組がそれぞれ三角形の底面でトーラスのように結合し、2つのトーラスが互いの周りに絡み合ったような図形です。2次元の正三角形2つの直積でできる4次元図形とみることもできて、こちらの方がより高次元への一般化がわかりやすいかもしれません。

7次元以上の高次元の場合は、上で行ったような入れ子状の議論を繰り返しても良いのですが、低次元の単体2つの直積とみなす方法が楽です。つまり、$(2n-1)$次元単体の頂点を$n$個ずつ2つのグループに分けるとき、各グループの頂点からなる2つの$(n-1)$次元単体は互いに直交するので真ん中できるとそれらの直積の図形が出現します(3次元のとき線分二つの直積で正方形、5次元のとき三角形二つの直積でduoprismになったことの自然な拡張になっている)。



以上、かなりハイペースでしたが高次元正多胞体の切り口についてまとめました。図がないうえに説明もだいぶ端折ったので厳密でなければわかりやすくもないですが、数学デーで出た話題の(主に自分用)備忘録くらいの役割は担えるかと思います(意訳:詳しく聞きたければ数学デーに来るといいんじゃないかな)。また、ここに書いたことは私が一人で考えたものではなく、数学デーに来ているすごい人たちのアイディアの集まりであることをお断りしておきます。最後に、ここには書きませんでしたが、120胞体や600胞体の切り口も面白いようなので、何かわかったら追記するかもしれません。

ではまた数学デーでお会いしましょう。Merry Christmas!!!