共円と複比
これは好きな証明 Advent Calendar 2018 - Adventarへの参加記事です。
次のような初等幾何の美しい定理があります*1:
定理 平面上に8つの点$Z_1,Z_2,Z_3,Z_4,W_1,W_2,W_3,W_4$があり、
$(Z_1,Z_2,W_1,W_2),(Z_2,Z_3,W_2,W_3),(Z_3,Z_4,W_3,W_4),(Z_4,Z_1,W_4,W_1)$および$(Z_1,Z_2,Z_3,Z_4)$の各組の4点がそれぞれ共円であるとする。このとき$(W_1,W_2,W_3,W_4)$も共円である。
証明 上図のような位置関係のとき、
より示された。
この証明が私の好きな証明ではない。確かに、円内四角形を次々に辿って角度を反対側へ輸送するのはパズルみたいで楽しいが、上の証明には致命的な欠陥がある。必ずしも8点の位置関係が図1のようになっているとは限らないのだ:
勿論、点の位置関係について丁寧に場合分けをして似たような計算をすれば上の方針でも証明はできるだろう。しかしそれでは定理そのものの簡潔さに比して極めて煩雑である。何か良い方法はないものか?
実は、この手の共円(や共線)がたくさん出てくる問題においては、複比を用いることで快刀の乱麻を断つがごとく綺麗に解決できる:
定理の証明 平面を複素数全体の集合と同一視して、点$Z_1$に対応する複素数を$z_1$などと書く。$(Z_1,Z_2,Z_3,Z_4)$が共円であることより、
である。同様に、
も全て実数となる。このとき、
となり、$(W_1,W_2,W_3,W_4)$も共円である。
というわけで、平面幾何を複素数を用いて扱う手法の威力を示したこの証明が私の好きな証明の一つです。
ここからは余談なのですが、複比という概念を私は最初純粋に数学的な興味から学びました。しかし最近共形場理論を勉強していたら再び複比との邂逅を果たし*2、この度好適な場があったのでこれを話題に選んで一筆認めてみました。なんとなく面白そうだと思って勉強したことが他の分野に役立つのも数学の楽しい点の一つですね。今後もそういった体験談をこの場に書き記していきたいと思います。
今回は少し短いですが、また次の記事でお会いしましょう。