共円と複比

これは好きな証明 Advent Calendar 2018 - Adventarへの参加記事です。


次のような初等幾何の美しい定理があります*1

定理 平面上に8つの点$Z_1,Z_2,Z_3,Z_4,W_1,W_2,W_3,W_4$があり、
$(Z_1,Z_2,W_1,W_2),(Z_2,Z_3,W_2,W_3),(Z_3,Z_4,W_3,W_4),(Z_4,Z_1,W_4,W_1)$および$(Z_1,Z_2,Z_3,Z_4)$の各組の4点がそれぞれ共円であるとする。このとき$(W_1,W_2,W_3,W_4)$も共円である。

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図1

証明 上図のような位置関係のとき、

\begin{align}
\angle W_2W_3W_4&=\angle W_2W_3Z_3+\angle Z_3W_3W_4\\
&=(\pi-\angle W_2Z_2Z_3)+(\pi-\angle Z_3Z_4W_4)\\
&=(\angle W_2Z_2Z_1+\angle Z_1Z_2Z_3-\pi)+(\angle W_4Z_4Z_1+\angle Z_1Z_4Z_3-\pi)\\
&=(\pi-\angle W_2W_1Z_1)+(\pi-\angle W_4W_1Z_1)-\pi\\
&=\pi-\angle W_2W_1W_4
\end{align}

より示された。


この証明が私の好きな証明ではない。確かに、円内四角形を次々に辿って角度を反対側へ輸送するのはパズルみたいで楽しいが、上の証明には致命的な欠陥がある。必ずしも8点の位置関係が図1のようになっているとは限らないのだ:

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図2

勿論、点の位置関係について丁寧に場合分けをして似たような計算をすれば上の方針でも証明はできるだろう。しかしそれでは定理そのものの簡潔さに比して極めて煩雑である。何か良い方法はないものか?


実は、この手の共円(や共線)がたくさん出てくる問題においては、複比を用いることで快刀の乱麻を断つがごとく綺麗に解決できる:


定理の証明 平面を複素数全体の集合と同一視して、点$Z_1$に対応する複素数を$z_1$などと書く。$(Z_1,Z_2,Z_3,Z_4)$が共円であることより、


\begin{align}
\frac{(z_1-z_2)(z_3-z_4)}{(z_1-z_4)(z_2-z_3)}\in\mathbb R
\end{align}

である。同様に、


\begin{align}
\frac{(z_1-z_2)(w_1-w_2)}{(z_1-w_1)(z_2-w_2)},\frac{(z_2-z_3)(w_2-w_3)}{(z_2-w_2)(z_3-w_3)},\frac{(z_3-z_4)(w_3-w_4)}{(z_3-w_3)(z_4-w_4)},\frac{(z_4-z_1)(w_4-w_1)}{(z_4-w_4)(z_1-w_1)},
\end{align}

も全て実数となる。このとき、


\begin{align}
&\frac{(w_1-w_2)(w_3-w_4)}{(w_1-w_4)(w_2-w_3)}\\
=&\frac{(z_1-z_2)(w_1-w_2)}{(z_1-w_1)(z_2-w_2)}\left[\frac{(z_2-z_3)(w_2-w_3)}{(z_2-w_2)(z_3-w_3)}\right]^{-1}\frac{(z_3-z_4)(w_3-w_4)}{(z_3-w_3)(z_4-w_4)}\left[\frac{(z_4-z_1)(w_4-w_1)}{(z_4-w_4)(z_1-w_1)}\right]^{-1}\left[\frac{(z_1-z_2)(z_3-z_4)}{(z_1-z_4)(z_2-z_3)}\right]^{-1}\\
\in&\mathbb R
\end{align}

となり、$(W_1,W_2,W_3,W_4)$も共円である。


というわけで、平面幾何を複素数を用いて扱う手法の威力を示したこの証明が私の好きな証明の一つです。

ここからは余談なのですが、複比という概念を私は最初純粋に数学的な興味から学びました。しかし最近共形場理論を勉強していたら再び複比との邂逅を果たし*2、この度好適な場があったのでこれを話題に選んで一筆認めてみました。なんとなく面白そうだと思って勉強したことが他の分野に役立つのも数学の楽しい点の一つですね。今後もそういった体験談をこの場に書き記していきたいと思います。


今回は少し短いですが、また次の記事でお会いしましょう。

*1:定理の名前を知っている人がいたら教えてください

*2:3次元以上の空間において複比は共形変換で不変となる。「理論が共形不変である」という要請は非常に強い条件であるので、$n\le3$に対して$n$点函数は理論の詳細によらず函数形が決まってしまう。4点函数が理論依存の量の中で最も単純な自由度をもち、4点の複比(と似た概念)の1変数関数となる

Asgeirsson's Mean Value Theorem

滑り込みですが枠が空いていたので、
日曜数学 Advent Calendar 2018 - Adventar
に参戦します。

唐突ですが、超双曲型方程式 - Wikipediaを見ると、最後に

「超双曲型方程式は調和函数に対する平均値の定理に似たものを満たす。」

という記述があります。上のページにはそれ以上の情報はないのですが、これは面白そうだと思っていろいろ調べてみると、何やらAsgeirsson's mean value theorem というのがあるらしい、ということがわかってきました:

Asgeirsson's Mean Value Theorem
$x_i,y_i (i=1,\dots,n)$の$2n$変数函数$u(x,y)$が超双曲偏微分方程式


\begin{align}
\left(\Delta_x-\Delta_y\right)u\equiv\sum_{i=1}^n\left(\frac{\partial^2}{\partial x_i^2}-\frac{\partial^2}{\partial y_i^2}\right)u=0
\end{align}

を満たすとき、$|x|^2\equiv\sum_i x_i^2$と$|y|^2\equiv\sum_i y_i^2$がそれぞれ一定の超球面$\times$超球面上の積分について、


\begin{align}
\int_{|x|=\rho}\int_{|y|=\sigma}u(x,y)\,dS_xdS_y=\int_{|x|=\sigma}\int_{|y|=\rho}u(x,y)\,dS_xdS_y
\end{align}

が成り立つ($\rho$と\sigmaに関して対称になる)。

【参考文献】
https://core.ac.uk/download/pdf/82741918.pdf
http://mathreview.uwaterloo.ca/archive/voli/1/robison.pdf
など


しかし探した範囲ではわかりやすくて自然な証明がなかったので、自分で考えた証明を書きたいと思います。

本題に取り掛かる前にまず、調和函数に関する平均値定理を復習しましょう:


調和函数に関する平均値定理

$x_i(i=1,\dots,n)$の$n$変数函数$f(x)$がLaplace方程式


\begin{align}
\Delta f\equiv\sum_{i=1}^n\frac{\partial^2f}{\partial x_i^2}=0
\end{align}

を満たすとき、平均値定理


\begin{align}
\int_{|x|=r}f(x)\,dS=f(0)\int_{|x|=r}\,dS
\end{align}

が成り立つ。

証明
まず、$n=1$の場合はLaplace方程式を直接積分できて簡単なので省略。$n\ge2$に対しては二つの方針がある:

証明1(微分方程式を解く)

球面上の平均値を球の半径$r$の函数とみて、これが満たす微分方程式を解く方針で定理を示すことができる:

$n\ge2$のとき、Laplace方程式を球座標で書き直すと、


\begin{align}
\Delta=\frac1{r^{n-1}}\frac\partial{\partial r}\left(r^{n-1}\frac{\partial f}{\partial r}\right)+\frac1{r^2}\Delta_{S^{n-1}}f=0
\end{align}

ただし、$\Delta_{S^{n-1}}$は$S^{n-1}$上のLaplace-Beltrami 作用素。これを球面方向に積分して、


\begin{align}
m(r)\equiv\int_{|x|=r}f(x)\,dS\bigg/\int_{|x|=r}\,dS
\end{align}

とおくと、


\begin{align}
\frac1{r^{n-1}}\frac\partial{\partial r}\left(r^{n-1}\frac{\partial m}{\partial r}\right)=0
\end{align}

積分して、$n\ge3$のとき


\begin{align}
m(r)=C_1+C_2r^{2-n}
\end{align}

$n=2$のときは


\begin{align}
m(r)=C_1+C_2\log r
\end{align}

しかし、$r\to+0$のとき$m(r)\to f(0)$(有界)より、いずれの場合も$C_2=0$。よって$m(r)=$定数となり主張が示された。

証明2(積分核を用いる)

$\Delta f=\Delta(|x|^{2-n})=0$とStokesの定理により、


\begin{align}
0&=\frac12\int_{\varepsilon\le|x|\le r}\Delta\left(|x|^{2-n}f\right)d^nx\\
&=\int_{\varepsilon\le|x|\le r}\left(\overrightarrow\nabla f\right)\cdot\overrightarrow\nabla|x|^{2-n}d^nx\\
&=\left(\int_{|x|=r}-\int_{|x|=\varepsilon}\right)|x|^{1-n}f\,dS\\
&=\frac1{r^{n-1}}\int_{|x|=r}f(x)\,dS-\frac1{\varepsilon^{n-1}}\int_{|x|=\varepsilon}f(x)\,dS
\end{align}

$\varepsilon\to0$として、


\begin{align}
\int_{|x|=r}dS\propto r^{n-1}
\end{align}

に注意すると主張が成り立つことがわかる($n=2$の場合は積分核を$\log|x|$とすればよい)。


これらの方法を真似てAsgeirsson's mean value theorem を証明してみましょう:

Asgeirsson's Mean Value Theoremの証明

まず、$n=1$の場合は超双曲方程式が(1+1)次元波動方程式


\begin{align}
\left(\frac{\partial^2}{\partial x^2}-\frac{\partial^2}{\partial y^2}\right)u=0
\end{align}

となり、一般解が


\begin{align}
u(x,y)=g(x+y)+h(x-y)
\end{align}

と書き下せるので単純計算により


\begin{align}
u(\rho,\sigma)+u(\rho,-\sigma)+u(-\rho,\sigma)+u(-\rho,-\sigma)=(\rho\leftrightarrow\sigma)
\end{align}

が示せる。以下$n\ge2$の場合を考える。

証明1(微分方程式を解く)

調和函数の場合と同様に、|x|=\rho,|y|=\sigmaなる超球面$\times$超球面上における$u(x,y)$の平均値をm(\rho,\sigma)と書くと、超双曲方程式を積分して、


\begin{align}
\left[\frac{\partial^2}{\partial\rho^2}-\frac{\partial^2}{\partial\sigma^2}+(n-1)\left(\frac1{\rho}\frac\partial{\partial\rho}-\frac1{\sigma}\frac\partial{\partial\sigma}\right)\right]m=0
\end{align}

\rho+\sigma=s,\rho-\sigma=tとおいて整理すると、


\begin{align}
\left[(s^2-t^2)\frac\partial{\partial s}\frac\partial{\partial t}+(n-1)\left(s\frac\partial{\partial t}-t\frac\partial{\partial s}\right)\right]m=0
\end{align}

$l(s,t)=m(s,t)-m(s.-t)$とおくと、$l$もmと同じ微分方程式を満たし、$l(s,0)=0$である。よって、


\begin{align}
\frac{\partial l}{\partial s}(s,0)=0
\end{align}

である。$t=0$とおくと微分方程式


\begin{align}
s^2\frac{dw}{ds}+(n-1)sw=0
\end{align}

となる。ただし、


\begin{align}
w(s)\equiv\frac{\partial l}{\partial t}(s,0)
\end{align}

である。これを積分して、


\begin{align}
w(s)=Cs^{1-n}
\end{align}

となるが、$s\to0$で$w(s)$は有界のはずなので、恒等的に$w(s)=0$である。よって、


\begin{align}
l(s,0)=\frac{\partial l}{\partial t}(s,0)=0
\end{align}

であり、件の微分方程式は二階線形なので、$l(s,t)$は恒等的に0となる。すなわち$m(s,t)$は$t$に関して偶関数となり、m(\rho.\sigma)\rho+\sigma|\rho-\sigma|のみに依存する。これよりm\rho\sigmaに関して対称である。

証明2(積分核を用いる)

$n\ge3$のとき、調和函数の場合と同様にして部分積分により、


\begin{align}
&\int_{|x|\in[\varepsilon,\rho]}|x|^{2-n}\Delta_xu(x,y)\,d^nx\\
=&2(n-2)\left[\frac1{\rho^{n-1}}\int_{|x|=\rho}u\,dS_x-\frac1{\varepsilon^{n-1}}\int_{|x|=\varepsilon}u\,dS_x\right]
\end{align}

これより、


\begin{align}
&\frac1{2(n-2)}\int_{|y|\in[\varepsilon,\sigma]}|y|^{2-n}\int_{|x|\in[\varepsilon,\rho]}|x|^{2-n}\Delta_xu\,d^nxd^ny\\
=&\int_{|y|\in[\varepsilon,\sigma]}|y|^{2-n}\left[\frac1{\rho^{n-1}}\int_{|x|=\rho}u\,dS_x-\frac1{\varepsilon^{n-1}}\int_{|x|=\varepsilon}u\,dS_x\right]d^ny\\
=&\int_\varepsilon^\sigma z\,\frac1{z^{n-1}}\int_{|y|=z}\left[\frac1{\rho^{n-1}}\int_{|x|=\rho}u\,dS_x-\frac1{\varepsilon^{n-1}}\int_{|x|=\varepsilon}u\,dS_x\right]dS_ydz
\end{align}

$\Delta_xu=\Delta_yu$なので、


\begin{align}
\int_\varepsilon^\sigma z\left[m(\rho,z)-m(\varepsilon,z)\right]dz=\int_\varepsilon^\rho z\left[m(z,\sigma)-m(z,\varepsilon)\right]dz
\end{align}

両辺を$\rho$と\sigma微分して移項すると、


\begin{align}
\left(\sigma\frac\partial{\partial\rho}-\rho\frac\partial{\partial\sigma}\right)m(\rho,\sigma)=0
\end{align}

これは、m(\rho,\sigma)が、\rho^2+\sigma^2=定数 の円上で一定の値をとることを示している。特に、m(\rho,\sigma)=m(\sigma,\rho)である。
$n=2$のときは例によって積分核を$\log|x|\log|y|$にすればよい。


というわけで、調和函数のときに使えた二つの方法を真似ることで自然に(?)Asgeirsson's mean value theorem を証明することができました(二つの方針は本質的に似たようなものですが)。本記事における間違いや、よりわかりやすい証明を見つけた方は遠慮なく御一報ください。


ではまた、どこかのAdvent calendar 上でお会いしましょう。

二次体における有理素数の既約性と結婚式の御祝儀

 御無沙汰しております。Antiprism改めADEです(長いので名前を変えた)。最近面白い問題を聞いたので久しぶりにブログを書きたいと思います。前の記事の問題の答え? 知らん
 

発端は次のツイートでした:

 
これに対してZassyさんが以下のような問題を提起されました:

 
 この問題を否定的に解決できたので証明を書きたいと思います。

 

以下の定理を証明します:

定理 21個あるノルムユークリッド二次体の全てにおいて既約であるような有理素数は存在しない

 

まず準備として、幾つか用語を定義します:

定義1 $d\in\mathbb{Z}$に対して、

X[d]=
\begin{cases}
\mathbb{Z}\left[\displaystyle\frac{1+\sqrt d}2\right]&(d\equiv1\mod4)\\
\mathbb{Z}[\sqrt d]&(\mathrm{otherwise})
\end{cases}

とする。

※21個のノルムユークリッド二次体は$X[d],\ d\in\{−11, −7, −3, −2, −1, 2, 3, 5, 6, 7, 11, 13, 17, 19, 21, 29, 33, 37, 41, 57, 73\}$と表せる。

定義2 $d\in\mathbb Z$に対して、2次の多項式$f_d(x)$を

f_d(x)=
\begin{cases}
x^2-x+\displaystyle\frac{1-d}4&(d\equiv1\mod4)\\
x^2-d&(\mathrm{otherwise})
\end{cases}

と定義する。$X[d]=\mathbb Z[x]/f_d(x)$であることに注意。


次に、有理素数の既約性を平方剰余に結びつける補題を用意します:

補題 有理素数$p>2$が$X[d]$上で既約であることと、$d$が$p$を法として平方剰余でないこととは同値である。

証明 $X[d]$上で$p$が既約であるとき、商環$X[d]/(p)$は整域となる。$X[d]=\mathbb Z[x]/f_d(x)$より、


\begin{align}
X[d]/(p)&=\left(\mathbb Z[x]/f_d(x)\right)/(p)\\
&=\mathbb Z[x]/(f_d(x),p)\\
&=\left(\mathbb Z[x]/(p)\right)/f_d(x)\\
&=\mathbb F_p[x]/f_d(x)
\end{align}

も整域となる。これは、$\mathbb F_p$上で$f_d(x)$が既約であることを示している。
$f_d(x)$が$\mathbb F_p$上可約$\iff f_d(x)$が$\mathbb F_p$上に根を持つ に注意する($f_d(x)$は二次式だから)と、
$d\not\equiv1\mod4$のとき、$\exists k\in\mathbb F_p,\quad f_d(k)\equiv0\mod p\iff k^2\equiv d\mod p$より、命題が成り立つ。
$d\equiv1\mod4$のときは、$f_d(k)\equiv0\mod p\iff (2k-1)^2\equiv d\mod p$となるが、
$(2k-1)^2\equiv d\iff (p-2k+1)^2\equiv d$であり、$2k-1$が全ての奇数を亘るとき$p-2k+1$は全ての偶数を亘る($p$は奇素数であることに注意)のでやはり命題は成り立つ。

※この補題周辺の議論はカステラさん(@graws188390)に教えていただきました。ありがとうございます。


最初の定理を示すためには、より強い次の主張を示せば十分である:

主張 $\mathbb Z[\sqrt{-1}]$, $\mathbb Z[\sqrt{-2}]$, $\mathbb Z[\sqrt2]$の全てにおいて既約となる有理素数は存在しない。

証明 ある有理素数$p$が上の3つの整数環全てにおいて既約であると仮定する。$2=(1+\sqrt{1})(1-\sqrt{-1})=-(\sqrt{-2})^2=(\sqrt2)^2$より、$p\ge3$としてよい。上の補題より、平方剰余に関して


\begin{align}
\left(\frac{-1}p\right)=\left(\frac{-2}p\right)=\left(\frac2p\right)=-1
\end{align}

が必要である。一方、$p$は$-1,-2,2$のいずれとも互いに素であるので、平方剰余に関する因数分解


\begin{align}
\left(\frac{-1}p\right)\left(\frac{-2}p\right)=\left(\frac2p\right)
\end{align}

が成り立つ。この二つは明らかに矛盾している。


この主張によって特に、21個のノルムユークリッド二次体の全てにおいて既約となる有理素数が存在しないことが言えたわけですが、ならば最大で21個のうち何個の二次体で既約となる有理素数が存在するかが気になるところです。上の証明では$(-1)\cdot(-2)=2$という関係しか使っていないので、同様の議論で一般に$X[a],X[b],X[ab]$の全てにおいて規約となるような有理素数が存在しないことが言えます。ここでノルムユークリッド二次体を特徴付ける整数のリスト$L=\{−11, −7, −3, −2, −1, 2, 3, 5, 6, 7, 11, 13, 17, 19, 21, 29, 33, 37, 41, 57, 73\}$を眺めると、まず$\{-7, -3, -2, -1, 2, 3, 7\}\subset L$より、$-1$がかなりの悪さをしていることがわかります。そこで$-1$を$L$から削除することにします。次に$\{3, 2, 6, 7, 21, 11, 33, 19, 57\}\subset L$より、$3$も削除します。これにより、


\begin{align}
\left(\frac{-1}p\right)=\left(\frac3p\right)=+1
\end{align}

を許容したことになります。
最後に、$(-1)\cdot3=-3$と$\{-3, -2, 6\}\subset L$より、$-3$を削除してできる18個の$d$のリスト$L'=\{−11, −7, −2, 2, 5, 6, 7, 11, 13, 17, 19, 21, 29, 33, 37, 41, 57, 73\}$が、上記の主張により制限を受けない最大のリストの候補です。

実際にコンピュータで計算してみると、上の18個の全ての$d$に対して$X[d]$上既約となるような有理素数は確かに存在して、小さい方から

7213, 224677, 244837, 548533, 559093, 585877, 607813, 870253, 988357, ……

となります。


 さてここで、もともとなぜ二次体で既約な有理素数を探していたのかを思い出してみましょう。それは、結婚式の御祝儀の額として相応しい、なるべく"割れない"整数を求めてのことでした。一般的に御祝儀の相場は三万円前後とされていて、上の計算結果で最も30,000に近いのは7213です。つまり、
結婚式の御祝儀として最も相応しいのは7213円なのです。小銭の枚数もそんなに多くないのでそういう意味でも優秀ですね。なんだか安すぎて殴られそうな金額ですが、それを逆用して嫌いな奴への手切れ金として御祝儀に包むのもアリだと思います。勿論、俺が結婚するときは遠慮なく224677円包んでください。小銭たっぷりの585877円でも全く構いません。

結論が出たところで、ではまたどこかの空間上でお会いしましょう。

Nested square roots 答え/ある種の積分

 ご無沙汰しております。本業の筋トレ研究が忙しくて死にそうになっていました。

 遅くなりましたが前回の問題:

”\(a_n=\sqrt{1+2\sqrt{1+3\sqrt{1+4\sqrt{1+\cdots\sqrt{1+(n+1)}}}}}\)

に対し、$\lim_{n\to\infty}a_n$を求めよ”

の解答を書きたいと思います。


 先に答えを言ってしまうと、極限値は$3$です。


\begin{align}
3&=\sqrt{1+8}\\
&=\sqrt{1+2\sqrt{1+15}}\\
&=\cdots=\sqrt{1+2\sqrt{1+3\sqrt{1+\cdots n\sqrt{1+(n+1)(n+3)}}}}
\end{align}

なので、これと比べることを考えます。上の式より、$a_n\leq3$は明らかですが、下からの評価が少し難しい:

$\alpha\geq1,\beta\geq0$で成り立つ式$\sqrt\alpha\sqrt{1+\beta}\geq\sqrt{1+\alpha\beta}$(両辺二乗すれば示せる)を用いて、


\begin{align}
3&=\sqrt{1+2\sqrt{1+3\sqrt{1+\cdots n\sqrt{1+(n+1)(n+3)}}}}\\
&\leq\sqrt{1+2\sqrt{1+3\sqrt{1+\cdots n\sqrt{n+3}\sqrt{1+(n+1)}}}}\\
&\leq\cdots\leq(n+3)^{2^{-n}}\sqrt{1+2\sqrt{1+3\sqrt{1+\cdots n\sqrt{1+(n+1)}}}}\\
&=(n+3)^{2^{-n}}a_n
\end{align}

これらにより、$3\cdot(n+3)^{-2^{-n}}\leq a_n\leq3$.


\begin{align}
\therefore\lim_{n\to\infty}a_n=3
\end{align}


 全く同様にして、以下のより一般的な式を示すことができます:


\begin{align}
a_n&=\sqrt{b^2+1\cdot\sqrt{b^2+(1+b)\sqrt{b^2+\cdots[(n-1)b+1]\sqrt{b^2+nb+1}}}}\\
&\to b+1\quad(n\to\infty)
\end{align}

(出展:Nested radical - Wikipedia

$b=2$とした式


\begin{align}
\sqrt{4+\sqrt{4+3\sqrt{4+5\sqrt{4+\cdots\sqrt{4+(2n-1)\sqrt{4+(2n+1)}}}}}}\quad\to3\quad(n\to\infty)
\end{align}

は、過去に近畿大学数学コンテスト(第15回、2012年)
http://www.math.kindai.ac.jp/assets/files/mathcon/MC15mondai.pdf
においても出題されています。

 このブログの最初のテーマとして上のNested rootsに関する問題を扱ったのは、上記Wikipedia記事内の証明(?)が厳密さに欠けていて不満だったからでもありますが、何より上記近大数コンに出場して上の問題が解けずに入賞を逃し、非常に悔しい思いをしたからというのもあります。昨年やっと優秀賞を獲ったので今年こそは最優秀賞が欲しい。


 まあ余談はそのくらいにして、次の問題に移りたいと思います:

問題;次の積分値をそれぞれ求めよ。

\begin{align}
(1)&\quad\int_0^\infty\exp\left(-x^2-\frac1{x^2}\right)dx\\
(2)&\quad\int_{-\infty}^\infty\cfrac1{1+\left(x-\cfrac1x\right)^2}dx\\
(3)&\quad\int_{-\infty}^\infty\cfrac1{1+\left(x-\cfrac1x-\cfrac2{x-1}\right)^2}dx
\end{align}

答えは次の記事に書きます。

挨拶と自己紹介、nested square roots

 (ブログでは、もしくは完全に)はじめまして。Grand Antiprismと申します。お前などGrandの器じゃないという方、単純に長いという方は、短くAntiprismとお呼びください。

 

 最近趣味で数学系の集まりに参加する機会があって、そこで出会った人たちの多くがブログを書いているようだったので僕も始めることにしました。数学のほか、理論物理やプログラミング等について書いていきたいと考えています。根本的な間違いはもちろん誤字、脱字、衍字の類は遠慮なくご指摘ください。

 

 挨拶はこれくらいで終わりにして、最近某界隈で無限連分数やinfinitely nested square roots(無限多重根号)が流行っているようなので、ブログに数式を描く練習も兼ねて(おそらく)そこで出ていなかった問題を一つ取り上げたいと思いmath.

 

 

問題.

 数列$\{a_n\}$を、

\(a_n=\sqrt{1+2\sqrt{1+3\sqrt{1+4\sqrt{1+\cdots\sqrt{1+(n+1)}}}}}\)

と定義する。$\lim_{n\to\infty}a_n$を求めよ。*1

 

 

 答えは次の記事に書きます。

*1:出展;有名問題