二次体における有理素数の既約性と結婚式の御祝儀

 御無沙汰しております。Antiprism改めADEです(長いので名前を変えた)。最近面白い問題を聞いたので久しぶりにブログを書きたいと思います。前の記事の問題の答え? 知らん
 

発端は次のツイートでした:

 
これに対してZassyさんが以下のような問題を提起されました:

 
 この問題を否定的に解決できたので証明を書きたいと思います。

 

以下の定理を証明します:

定理 21個あるノルムユークリッド二次体の全てにおいて既約であるような有理素数は存在しない

 

まず準備として、幾つか用語を定義します:

定義1 $d\in\mathbb{Z}$に対して、

X[d]=
\begin{cases}
\mathbb{Z}\left[\displaystyle\frac{1+\sqrt d}2\right]&(d\equiv1\mod4)\\
\mathbb{Z}[\sqrt d]&(\mathrm{otherwise})
\end{cases}

とする。

※21個のノルムユークリッド二次体は$X[d],\ d\in\{−11, −7, −3, −2, −1, 2, 3, 5, 6, 7, 11, 13, 17, 19, 21, 29, 33, 37, 41, 57, 73\}$と表せる。

定義2 $d\in\mathbb Z$に対して、2次の多項式$f_d(x)$を

f_d(x)=
\begin{cases}
x^2-x+\displaystyle\frac{1-d}4&(d\equiv1\mod4)\\
x^2-d&(\mathrm{otherwise})
\end{cases}

と定義する。$X[d]=\mathbb Z[x]/f_d(x)$であることに注意。


次に、有理素数の既約性を平方剰余に結びつける補題を用意します:

補題 有理素数$p>2$が$X[d]$上で既約であることと、$d$が$p$を法として平方剰余でないこととは同値である。

証明 $X[d]$上で$p$が既約であるとき、商環$X[d]/(p)$は整域となる。$X[d]=\mathbb Z[x]/f_d(x)$より、


\begin{align}
X[d]/(p)&=\left(\mathbb Z[x]/f_d(x)\right)/(p)\\
&=\mathbb Z[x]/(f_d(x),p)\\
&=\left(\mathbb Z[x]/(p)\right)/f_d(x)\\
&=\mathbb F_p[x]/f_d(x)
\end{align}

も整域となる。これは、$\mathbb F_p$上で$f_d(x)$が既約であることを示している。
$f_d(x)$が$\mathbb F_p$上可約$\iff f_d(x)$が$\mathbb F_p$上に根を持つ に注意する($f_d(x)$は二次式だから)と、
$d\not\equiv1\mod4$のとき、$\exists k\in\mathbb F_p,\quad f_d(k)\equiv0\mod p\iff k^2\equiv d\mod p$より、命題が成り立つ。
$d\equiv1\mod4$のときは、$f_d(k)\equiv0\mod p\iff (2k-1)^2\equiv d\mod p$となるが、
$(2k-1)^2\equiv d\iff (p-2k+1)^2\equiv d$であり、$2k-1$が全ての奇数を亘るとき$p-2k+1$は全ての偶数を亘る($p$は奇素数であることに注意)のでやはり命題は成り立つ。

※この補題周辺の議論はカステラさん(@graws188390)に教えていただきました。ありがとうございます。


最初の定理を示すためには、より強い次の主張を示せば十分である:

主張 $\mathbb Z[\sqrt{-1}]$, $\mathbb Z[\sqrt{-2}]$, $\mathbb Z[\sqrt2]$の全てにおいて既約となる有理素数は存在しない。

証明 ある有理素数$p$が上の3つの整数環全てにおいて既約であると仮定する。$2=(1+\sqrt{1})(1-\sqrt{-1})=-(\sqrt{-2})^2=(\sqrt2)^2$より、$p\ge3$としてよい。上の補題より、平方剰余に関して


\begin{align}
\left(\frac{-1}p\right)=\left(\frac{-2}p\right)=\left(\frac2p\right)=-1
\end{align}

が必要である。一方、$p$は$-1,-2,2$のいずれとも互いに素であるので、平方剰余に関する因数分解


\begin{align}
\left(\frac{-1}p\right)\left(\frac{-2}p\right)=\left(\frac2p\right)
\end{align}

が成り立つ。この二つは明らかに矛盾している。


この主張によって特に、21個のノルムユークリッド二次体の全てにおいて既約となる有理素数が存在しないことが言えたわけですが、ならば最大で21個のうち何個の二次体で既約となる有理素数が存在するかが気になるところです。上の証明では$(-1)\cdot(-2)=2$という関係しか使っていないので、同様の議論で一般に$X[a],X[b],X[ab]$の全てにおいて規約となるような有理素数が存在しないことが言えます。ここでノルムユークリッド二次体を特徴付ける整数のリスト$L=\{−11, −7, −3, −2, −1, 2, 3, 5, 6, 7, 11, 13, 17, 19, 21, 29, 33, 37, 41, 57, 73\}$を眺めると、まず$\{-7, -3, -2, -1, 2, 3, 7\}\subset L$より、$-1$がかなりの悪さをしていることがわかります。そこで$-1$を$L$から削除することにします。次に$\{3, 2, 6, 7, 21, 11, 33, 19, 57\}\subset L$より、$3$も削除します。これにより、


\begin{align}
\left(\frac{-1}p\right)=\left(\frac3p\right)=+1
\end{align}

を許容したことになります。
最後に、$(-1)\cdot3=-3$と$\{-3, -2, 6\}\subset L$より、$-3$を削除してできる18個の$d$のリスト$L'=\{−11, −7, −2, 2, 5, 6, 7, 11, 13, 17, 19, 21, 29, 33, 37, 41, 57, 73\}$が、上記の主張により制限を受けない最大のリストの候補です。

実際にコンピュータで計算してみると、上の18個の全ての$d$に対して$X[d]$上既約となるような有理素数は確かに存在して、小さい方から

7213, 224677, 244837, 548533, 559093, 585877, 607813, 870253, 988357, ……

となります。


 さてここで、もともとなぜ二次体で既約な有理素数を探していたのかを思い出してみましょう。それは、結婚式の御祝儀の額として相応しい、なるべく"割れない"整数を求めてのことでした。一般的に御祝儀の相場は三万円前後とされていて、上の計算結果で最も30,000に近いのは7213です。つまり、
結婚式の御祝儀として最も相応しいのは7213円なのです。小銭の枚数もそんなに多くないのでそういう意味でも優秀ですね。なんだか安すぎて殴られそうな金額ですが、それを逆用して嫌いな奴への手切れ金として御祝儀に包むのもアリだと思います。勿論、俺が結婚するときは遠慮なく224677円包んでください。小銭たっぷりの585877円でも全く構いません。

結論が出たところで、ではまたどこかの空間上でお会いしましょう。

Nested square roots 答え/ある種の積分

 ご無沙汰しております。本業の筋トレ研究が忙しくて死にそうになっていました。

 遅くなりましたが前回の問題:

”\(a_n=\sqrt{1+2\sqrt{1+3\sqrt{1+4\sqrt{1+\cdots\sqrt{1+(n+1)}}}}}\)

に対し、$\lim_{n\to\infty}a_n$を求めよ”

の解答を書きたいと思います。


 先に答えを言ってしまうと、極限値は$3$です。


\begin{align}
3&=\sqrt{1+8}\\
&=\sqrt{1+2\sqrt{1+15}}\\
&=\cdots=\sqrt{1+2\sqrt{1+3\sqrt{1+\cdots n\sqrt{1+(n+1)(n+3)}}}}
\end{align}

なので、これと比べることを考えます。上の式より、$a_n\leq3$は明らかですが、下からの評価が少し難しい:

$\alpha\geq1,\beta\geq0$で成り立つ式$\sqrt\alpha\sqrt{1+\beta}\geq\sqrt{1+\alpha\beta}$(両辺二乗すれば示せる)を用いて、


\begin{align}
3&=\sqrt{1+2\sqrt{1+3\sqrt{1+\cdots n\sqrt{1+(n+1)(n+3)}}}}\\
&\leq\sqrt{1+2\sqrt{1+3\sqrt{1+\cdots n\sqrt{n+3}\sqrt{1+(n+1)}}}}\\
&\leq\cdots\leq(n+3)^{2^{-n}}\sqrt{1+2\sqrt{1+3\sqrt{1+\cdots n\sqrt{1+(n+1)}}}}\\
&=(n+3)^{2^{-n}}a_n
\end{align}

これらにより、$3\cdot(n+3)^{-2^{-n}}\leq a_n\leq3$.


\begin{align}
\therefore\lim_{n\to\infty}a_n=3
\end{align}


 全く同様にして、以下のより一般的な式を示すことができます:


\begin{align}
a_n&=\sqrt{b^2+1\cdot\sqrt{b^2+(1+b)\sqrt{b^2+\cdots[(n-1)b+1]\sqrt{b^2+nb+1}}}}\\
&\to b+1\quad(n\to\infty)
\end{align}

(出展:Nested radical - Wikipedia

$b=2$とした式


\begin{align}
\sqrt{4+\sqrt{4+3\sqrt{4+5\sqrt{4+\cdots\sqrt{4+(2n-1)\sqrt{4+(2n+1)}}}}}}\quad\to3\quad(n\to\infty)
\end{align}

は、過去に近畿大学数学コンテスト(第15回、2012年)
http://www.math.kindai.ac.jp/assets/files/mathcon/MC15mondai.pdf
においても出題されています。

 このブログの最初のテーマとして上のNested rootsに関する問題を扱ったのは、上記Wikipedia記事内の証明(?)が厳密さに欠けていて不満だったからでもありますが、何より上記近大数コンに出場して上の問題が解けずに入賞を逃し、非常に悔しい思いをしたからというのもあります。昨年やっと優秀賞を獲ったので今年こそは最優秀賞が欲しい。


 まあ余談はそのくらいにして、次の問題に移りたいと思います:

問題;次の積分値をそれぞれ求めよ。

\begin{align}
(1)&\quad\int_0^\infty\exp\left(-x^2-\frac1{x^2}\right)dx\\
(2)&\quad\int_{-\infty}^\infty\cfrac1{1+\left(x-\cfrac1x\right)^2}dx\\
(3)&\quad\int_{-\infty}^\infty\cfrac1{1+\left(x-\cfrac1x-\cfrac2{x-1}\right)^2}dx
\end{align}

答えは次の記事に書きます。

挨拶と自己紹介、nested square roots

 (ブログでは、もしくは完全に)はじめまして。Grand Antiprismと申します。お前などGrandの器じゃないという方、単純に長いという方は、短くAntiprismとお呼びください。

 

 最近趣味で数学系の集まりに参加する機会があって、そこで出会った人たちの多くがブログを書いているようだったので僕も始めることにしました。数学のほか、理論物理やプログラミング等について書いていきたいと考えています。根本的な間違いはもちろん誤字、脱字、衍字の類は遠慮なくご指摘ください。

 

 挨拶はこれくらいで終わりにして、最近某界隈で無限連分数やinfinitely nested square roots(無限多重根号)が流行っているようなので、ブログに数式を描く練習も兼ねて(おそらく)そこで出ていなかった問題を一つ取り上げたいと思いmath.

 

 

問題.

 数列$\{a_n\}$を、

\(a_n=\sqrt{1+2\sqrt{1+3\sqrt{1+4\sqrt{1+\cdots\sqrt{1+(n+1)}}}}}\)

と定義する。$\lim_{n\to\infty}a_n$を求めよ。*1

 

 

 答えは次の記事に書きます。

*1:出展;有名問題